キルギスの祝祭料理会
更新日:2023年10月27日
秋晴れの好天の日が続いております。
気持ち晴れやかな秋の空、築地の食べ歩きも楽しい今日この頃ですが、
去年の今頃はコロナ禍の最中で、築地の人出もまだまだ余裕がありました。
しかし、この秋の築地はもう大変な盛況ぶり、毎日が祭りのような賑わいです。
そんなある日の築地魚河岸クッキングスタジオにて、三ヶ月ぶりのお祝い料理会を開催しました。今回は中央アジアの食文化研究家、先崎将弘さんを迎えてキルギスの祝祭料理を教わります。
先崎さんは長年中央アジアの食文化を研究してこられました。
私の方はというと、キルギス料理をいただくのは初めてです。キルギスという国についても知識が乏しく、中央アジアの、えーと真ん中くらい?どちらかというと乾燥した土地で、ラクダが暮らしていてモスクがあって?というような偏ったイメージ先行の不勉強ぶりだったのでした。
まずはキルギスの場所ですがこちらです↓
カザフスタンの大きさに圧倒されますが、キルギスは日本の半分くらいの大きさです。人口は700万を切るくらい、キルギス系、ウズベク系、ロシア系、ドゥンガン系など多数の民族が暮らす多民族国家です。
海には面しておらず内陸国で、国土のほとんどは天山山脈という山地で占められた山岳国家なのです。山岳国家ということがまず意外でした。国土のほとんどが山というのは日本と共通していますよね。前にも言ったことがあるかもしれませんが、山が多い国は個人的に親近感が湧くのです。
生活形態としては、キルギス人は元々遊牧民で(現在はほとんど定住しているそうです)家畜の肉と乳製品が食の中心でした。そういったことから、小麦などの農産物は貴重な食材で、お祝い料理もそのような大切な食材をつかい、特別な料理をふるまうという背景があるそうです。
というわけで、今日のキルギス祝祭料理のメニューは
・ベシュバルマク(5本の指麺)
・ボルソック(揚げパン)
・ドゥンガンサラダ(少数民族ドゥンガン人のサラダ)
の3品。2品は小麦をつかった料理です。
まずは、ベシュバルマクの具材である肉(本来羊肉だそうですが今日は牛肉)を煮込むところから。
材料はいたってシンプルで肉、玉ねぎ、麺の3つ。味付けは塩のみです。遊牧民のワイルドな祝祭料理という趣が良いですね。都会の真ん中の教室は室内ですが、野外で大勢で食べればまた違う味わいが生まれるのでしょう。
ちなみにベシュバルマク(5本の指麺)の意味ですが、指(手)を使って食べることからこの名前がついたそう。
ボルソックはお祝いの日の揚げパンです。今日は時間が限られているので先崎さんが生地を作ってこられました。パン生地をサイコロ状にカットして揚げていきます。
このボルソックもお祝いの席には必ず並ぶ定番メニューだそうで、変わっているのがその盛り付け方。お皿に盛らずにテーブルにまき散らすように置いていくのだそう。
お皿に乗り切れない位沢山作りましたよ、というもてなしぶりを表しているのだとか。
お皿やテーブルをわざと盛大に汚すのがマナーという国もありますよね。
大勢でわいわいと祝祭のテーブルを囲む賑わいの風景が頭に浮かんできました。
お次はドゥンガン人のサラダですが、
まず“ドゥンガン人”とは何者ですか?ってところですよね?私も初めて知りました。
ドゥンガン人はキルギスやカザフスタンに住む中国系ムスリム民族で、19世紀末ごろに中国西部地方で回教民の反乱があったのち、当時ロシア領内であった中央アジアに逃げてきた人々を祖にした民族だそうです。
キルギスでは農業を始める人が多かったドゥンガン人は、今までにない多くの種類の野菜を生産して、キルギスの食生活に大きな変化をもたらしたのだそうです。というのも遊牧民が多いキルギスでは、決まりきった野菜しか食べないことが多く、冬場などは玉ねぎ、じゃがいも、人参くらいしか市場に並ばない、といった状況を変えて市場に野菜を増やしたのだそう。それでこんなにカラフルな“ドゥンガンサラダ”なんですね。
炒めたナスを入れるところが日本人も好みそうなサラダ。胡椒とコリアンダーパウダーたっぷり入れます。
デモンストレーションや調理を終え、盛り付けして試食タイムです。
先崎さんがカザフスタンのお茶を持って来てくれました。
食事をいただきながら先崎さんからキルギスの食文化についてレクチャーして頂きました。
中央アジアの乳製品の話もとても興味深くて、乳製品の会も企画したくなりました。
会の様子ですが、ほとんどの人は初めて同士でグループでつくられましたが、皆さん楽しそうに和気あいあいでした。
なんとイベントの1日前に日本に帰国(この会のために)した在キルギス10年の旅行会社にお勤めの方も参加されて、今のキルギスの話も伺えました。
先崎さんにも沢山準備して頂いて、盛りだくさんの会になりました。
ありがとうございました。
お祝い料理には、やはりその国の昔からの生活や歴史がさまざまに反映されていますね。そういう料理は、ふだんの食事がどんどん今風にアップデートされていっても同じように更新されるという事は少ないように感じます。今風を取り込みながらも大事なところは残そうとするというか。お祝いの日くらいは自分たちにとって特別で懐かしいものをつくり、共に過ごし祝いたいという気持ちがはたらくのでしょうが、その当たり前とも思われる気持の根底にはどういった心境があるのか、あらためて考えたい気持ちになった今回でした。
暑さがひと段落したタイミングでの開催も良かったです。
さて、次回ですが今年はあと1回、11月末にガラッと趣を変えて「イギリスのクリスマス」の会を開催します。
どうぞ皆さまお楽しみに。
先崎さんの著書「食の宝庫キルギス」